「ダッタンソバ」は、モンゴルのダッタン人が好んで利用したと伝わるソバの一種です。このソバは苦い味わいを持ちながらも、滋味に富んでおり、ダッタン人たちはこれを貴重な栄養源として栽培してきました。現在でも、中国西南部の山岳地帯やチベットなどで主食として親しまれ、野菜が不足する冬には、このソバが栄養のバランスを整えるために食卓に上ることがあります。



ダッタンソバとは?

「ダッタンソバ」は、タデ科ソバ属に分類される非耐凍性の一年生草本です。その属名は、ソバの殻粒の形状がブナの実に似ていることに由来し、「Fagopyrum tataricum (L.) Gaertn.:ブナの実の形をした小麦」という意味を持っています。また、種名と英名は「ダッタン(タタール)人のソバ」を指し、ダッタン人が好んで栽培・利用していたことに由来します。

この植物は穀粒が強い苦味を持つため、「ニガソバ(苦ソバ)」とも呼ばれますが、近年では「ダッタンソバ」の呼称が一般的になっています。ソバ属の植物は、野生種を含めて10数種類が報告されていますが、実際に栽培されているのはダッタンソバと普通ソバの2種類だけです。

 

豊富なルチン

「ダッタンソバ」は、中国南部からヒマラヤ周辺諸国で広く栽培されており、ロシア、朝鮮半島、東欧諸国などでも一部で育てられています。近年、ダッタンソバが多量のルチンを含むことが明らかになり、それを薬用ルチンの原料としてフランスやインドなどでも栽培が行われています。

日本では、かつて北海道の一部でカラフトニガソバがわずかに植栽されたことがありましたが、食用にはされず、定着しませんでした。しかしこのカラフトニガソバが健康的でルチンを豊富に含むことが注目され、各地で栽培が進んでいます。

 

普通ソバよりも小さく、花は淡緑色

植物体は普通ソバよりも小さく、草丈は最大でも約60センチ程度です。茎は淡緑色で、数本の分枝を出します。葉は互生し、普通ソバよりやや小さく、三角形かハート型となり、品種により淡緑色から濃緑色まで異なります。

茎の先端と葉の付け根から総状花序の花房が出て、2〜7個の花をつけます。花の直径は約3ミリメートルで、普通ソバの約半分の大きさです。花被にあたる部分は淡緑色で、普通ソバの白色または薄ピンクとは全く異なります。小さく、かつ植物体と同じ緑色であるため、開花を見落とすことがあります。

 

自家受粉で結実

普通ソバとダッタンソバのより大きな違いは受粉の方法にあります。普通ソバは異型花型自家不和合性という性質を持ち、自分の花粉で自家受粉しても受精できず、結実しません。結実するためにはハナアブやミツバチなどの訪花昆虫による他家受粉が必要です。普通ソバの収量が低く、不安定である主な原因は、天候の影響を受ける訪花昆虫の活動に受粉が依存しているためです。

一方で、ダッタンソバは自家受粉して結実する自家和合性の性質を持ち、訪花昆虫に依存しません。ダッタンソバの収量は安定しており、普通ソバの3倍にも達することがあり、これは自家和合成によるものです。種子は普通ソバよりも小さく、形は不揃いで球形から小麦形をしており、色も灰白色から黒色など実にさまざまです。

寒冷な気候に強い特性から、ヒマラヤ山岳地帯ではダッタンソバが普通ソバよりも標高の高い場所で栽培される重要な作物となっています。

 

低カロリー、高タンパク

ダッタンソバは、穀粒に強い苦味があるために、普通ソバの栽培可能地域では敬遠され、普通ソバの栽培が難しい場所で主に栽培されてきました。しかし、近年ではその優れた栄養特性と機能性成分が明らかになり、日本でも健康的な穀物として高く評価され、各地で栽培が始まりました。中国では、古くからその効果を評価し、「薬膳ソバ」とも呼ばれています。

ダッタンソバのタンパク質は、普通ソバと同等の約12%であり、小麦よりもわずかに多く、玄米の約1.5倍です。脂肪、炭水化物、灰分についても、ダッタンソバと普通ソバには明らかな差は見られません。長寿のための滋養食とされてきた普通ソバと同様に、ダッタンソバは低カロリーであり、高タンパク質の優れた穀物と言えます。ソバのタンパク質はイネ科穀物に不足している必須アミノ酸のリジンを多く含み、アミノ酸価は92で、タンパク質として高い栄養価値を有しています。

 

肝臓に良いコリン

古くから「ソバは酒の害を少なくする食物」と言い伝えられてきました。その理由は、ソバに含まれるコリンのおかげです。コリンは、多量の飲酒や栄養過多による脂肪肝の予防に寄与するビタミンB群に分類されています。ダッタンソバは、普通ソバと同等かそれ以上のコリンを含んでいます。コリンの不足は、脂肪肝から肝硬変を引き起こし、腎臓にも損傷を与える可能性があります。コリンはまた、体内の神経伝達物質であるアセチルコリンを合成する前駆物質であり、アセチルコリンは副交感神経の刺激が必要で、自律神経失調症を予防します。

このように、ダッタンソバは普通ソバとほぼ同じ栄養価と健康機能を備えていますが、ソバに含まれる機能性物質で最も注目されているのはルチンです。

 

ルチンで血圧も低下

ルチンはポリフェノールの一種で、毛細血管壁の透過性増大を抑制する作用を示す化合物です。古くから、ダッタンソバは止血薬として使われ、腸内出血や脳溢血の止血にも利用されてきました。脆くなった毛細血管の弾力性を回復するため、これらの出血性疾患の予防にも高い効果があります。また、血圧降下と環状動脈を拡張する作用があり、狭心症や心筋梗塞の予防効果も認められています。さらに、細胞内の活性酸素除去作用、糖尿病の治療効果、およびコレステロール値を正常に保つ働きがあると言われています。

ダッタンソバには、普通ソバの100倍以上のルチンが含まれています。ルチンがルチナーゼという酵素で分解されてできるケルセチンが、苦味の主な原因です。ルチンとケルセチンは黄色い物質であり、ダッタンソバの穀粒が強い苦味をもち、粉が黄色いのはルチンを豊富に含んでいるためです。この特性から、「薬膳ソバ」と呼ばれることもあります。また、ダッタンソバにはシス・ウンベル酸が多く含まれていることが報告されています。シス・ウンベル酸は、普通ソバにほとんど含まれていない成分であり、シミやそばかすの原因となるメラニン色素の生成を抑制するため、ダッタンソバは健康だけでなく、美容にも効果があるとされています。

 

普通ソバや小麦粉と一緒に

ダッタンソバの穀粒は強い苦味を持っているため、家庭でそのまま利用することは難しいです。製粉して少量を普通ソバ粉や小麦粉に混ぜることで、苦味を薄めながら有用成分のルチンを摂取するのがおすすめです。家庭では、電動や手動のコーヒーミルと目の細かいふるいがあれば可能です。

ダッタンソバの全層粉は、普通ソバの100倍以上のルチンを含んでいるため、普通ソバに1割加えるだけでも、10倍のルチンを含むソバを使用することができます。ルチンの1日の所要量は約50mgとされています。ダッタンソバ粉は1gあたり約20mgのルチンを含んでいるため、調理中に失われる分を考慮しても、3gで十分です。ルチンは熱を加えても安定しているので、天ぷらの衣やお好み焼き、パンやクッキーに加えても大丈夫です。このように、ダッタンソバ粉は何にでも使え、その他にもカレー、スープ、シチューなどにも使用できます。

 

葉・茎はおひたしや炒め物に

間引いた若葉は野菜として利用できます。クセがなく食べやすいため、おひたしや炒め物など、様々な料理に幅広く活用できます。開花するまでは柔らかく、適宜プランターに厚まきしておけば、いつでも手軽に収穫できる便利な野菜となります。

葉はルチンの含有率が穀粒の1.5〜3倍とさらに高いことも評価されています。茎葉のルチン含有率は、ダッタンソバと普通ソバで差がないため、手に入りやすい方を選んで栽培することができます。

 

ダッタンソバを使った食品

ダッタンソバを使用した食品には、穀粒の形のまま加工したものと、製粉して粉として利用したものが存在します。穀粒のままでは苦味が強いため、一般的には煎ってお茶に加工されて販売されています。これらの商品は、ルチンの性質である熱に安定し水に溶けやすい特徴を生かしており、手軽にルチンを摂取することができます。また、粉にしたものは、苦味を軽減するために普通ソバの粉とブレンドして加工された食品や、小麦粉に混ぜて焼かれるソバクッキーなどがあります。

ダッタンソバの効果

免疫力を高める

ダッタンソバは普通ソバと同じく、低カロリーで高タンパク質です。タンパク質は体を構成する細胞になるほか、体を細菌やウイルスなどから守る免疫細胞のもとにもなります。免疫細胞が活性化されると、免疫力を高めることにつながります。

 

脂肪肝を防ぐ

ダッタンソバは、コリンを含んでいます。コリンは、多量の飲酒や栄養過多による起因する脂肪肝を防ぐ因子として、ビタミンB群に分類されています。

 

血圧低下

ダッタンソバに含まれるルチンはポリフェノールの一種で、毛細血管壁の透過性増大を抑制する作用を示す化合物です。血圧効果と環状動脈を拡張する作用があり、狭心症や心筋梗塞の予防効果も認められています。

こんな方におすすめ

免疫力を高めたい人

お酒を飲む人

高血圧が気になる人

おさらい

ダッタンソバは、普通ソバと比べて苦味が強い

ダッタンソバは低カロリー、高タンパク質の優れた穀物

肝臓に良いコリンや、血圧を下げるルチンなどの成分も含んでいる


参考文献

・根も葉もあってみになる本(発行所 下野新聞社)


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